分配法則を面積で理解する
このレッスンでできるようになること
- かっこが「先に計算するひとまとまり」を表す記号だと説明できる
- \(a(b + c) = ab + ac\) が成り立つ理由を、長方形の面積を使って説明できる
- かっこの外の数を中のすべての項にかけて、かっこを外した式に書き直せる
前のレッスンの確認
- 項 … 式を \(+\) と \(-\) で区切った、ひとかたまりのこと(符号は項に含まれる)
- 係数 … 文字にかけられている数のこと
- 移項 … 項を、符号を変えて反対の辺へ移すこと
- 代入 … 式の中の文字を、数に置き換えること
- 文字式の約束 … かけ算の記号 \(\times\) は省く/数を文字の前に書く/1は書かない
ここまでで、\(5x + 3 = 2x + 18\) のようなかっこのない方程式は解けるようになりました。ところが \(3(x + 2) = 15\) のようにかっこのついた方程式になると、まだ手が出せません。移項しようにも、\(x\) がかっこの中に閉じこめられているからです。
このセクションでは、まずかっこの外し方を身につけます。今日は方程式を解きません。式を書き直す練習だけをします。
かっこは「先に計算する」という合図
かっこは、その中を先に計算する、というひとまとまりの合図です。
\(3 \times (4 + 2)\) を計算してみます。かっこがあるので、まず \(4 + 2\) を計算して6。その6を3倍します。
3 × (4 + 2) = 3 × 6 = 18
かっこがないとどうなるでしょうか。
3 × 4 + 2 = 12 + 2 = 14
18と14。別の数になりました。かっこがあるかないかで計算の順番が変わり、答えも変わります。
かけ算の記号は省かれている
\(3(x + 2)\) の \(3\) と \((\) のあいだには、\(\times\) が省略されています。文字式の約束で「かけ算の記号は省く」と決めたのと同じことです。
\(3(x + 2) = 3 \times (x + 2)\)
ここで困ったことが起きます。かっこは「中を先に計算する」合図でした。ところが \(x + 2\) は \(x\) の値が分からないので先に計算できません。足し算のまま止まってしまいます。
それでもこの式を書き直したい。そのための道具が、今日の主役です。
長方形の面積で考える
たてが3、よこが \(x + 2\) の長方形を考えます。面積は「たて \(\times\) よこ」ですから、ちょうど \(3 \times (x + 2)\)、つまり \(3(x + 2)\) です。
これで \(3(x + 2)\) が「ある長方形の面積」として目に見えるようになりました。
同じ長方形を、2つに分ける
よこの \(x + 2\) は「\(x\) の分」と「2の分」がつながっている、という意味です。そのつなぎ目に縦線を1本引いて、長方形を左右2つの区画に分けます。
分けてできた2つの区画を見ます。
- 左の区画 … たて3、よこ \(x\) の長方形です。面積は \(3 \times x\)、つまり \(3x\)。
- 右の区画 … たて3、よこ2の長方形です。面積は \(3 \times 2 = 6\)。
2つを合わせると、面積は \(3x + 6\) です。
縦線を引いただけで、長方形そのものは何も変えていません。 それなのに、
- 分ける前の見方では、面積は \(3(x + 2)\)
- 分けたあとの見方では、面積は \(3x + 6\)
同じ長方形を2通りに表しただけなので、この2つは等しいはずです。
\(3(x + 2) = 3x + 6\)
\(x = 4\) を入れます。よこの長さは \(4 + 2 = 6\) です。
左辺 = 3 × (4 + 2) = 3 × 6 = 18
右辺 = 3 × 4 + 3 × 2 = 12 + 6 = 18
左辺 = 右辺 なので成り立つ
\(x\) にどんな数を入れても、2つの値は必ず一致します。縦線で分けても面積は変わらないからです。
分配法則
いま長方形で確かめたことを、文字を使った一般の形で書きます。
分配法則 … \(a(b + c) = ab + ac\)
言葉にすれば、かっこの外の数を、かっこの中のすべての項にかけるということです。
さきほどの図でいえば、\(a\) がたての3、\(b\) がよこの \(x\) の部分、\(c\) がよこの2の部分。\(ab\) が左の区画、\(ac\) が右の区画にあたります。
大事なのは「すべての項に」というところです。1つだけにかけて満足するのが、この単元でいちばん多い失敗です。図でいえば、右の区画を数え忘れる形です。
矢印でかけ忘れをふせぐ
かっこの外の数から、中の各項へ矢印を書くのがいちばん確実です。
\(3\) から \(x\) へ1本、\(3\) から \(2\) へ1本、合わせて2本の矢印。かっこの中の項も \(x\) と \(2\) の2つです。
矢印の本数と、かっこの中の項の数が一致していれば、かけ忘れはありません。 矢印が1本しか書けていないのに項が2つあるなら、その時点でまちがいです。
引き算が入るとき
つぎは \(4(2x - 3)\) を考えます。
長方形の面積のたとえは、ここから先は通じにくくなります。 よこの長さが \(-3\) の長方形は描けないからです。長さに負の数はありません。
面積の図は、分配法則がなぜ成り立つのかを納得するための入口です。ここから先は、図ではなく「項」として見ます。
項は、式を \(+\) と \(-\) で区切ったひとかたまりで、符号は項に含まれるのでした。ですから \(2x - 3\) の項は \(2x\) と \(-3\) の2つです。\(3\) ではなく \(-3\) です。
外の \(4\) を、両方の項にかけます。
- \(4 \times 2x = 8x\)
- \(4 \times (-3) = -12\)
合わせて、
\(4(2x - 3) = 8x - 12\)
矢印は2本、項も2つ。数は合っています。
\(x = 5\) を入れます。かっこの中は \(2 \times 5 - 3 = 7\) です。
左辺 = 4 × (2 × 5 − 3) = 4 × 7 = 28
右辺 = 8 × 5 − 12 = 40 − 12 = 28
左辺 = 右辺 なので成り立つ
引き算のときのこつは、引き算を「マイナスの項」として読みかえることです。\(2x - 3\) を「\(2x\) から3を引く」と読むかわりに「\(2x\) と \(-3\) が並んでいる」と読む。あとはどちらの項にも同じようにかけるだけです。
かっこの中に文字の項があるとき
\(2(3x + 4)\) のように、かっこの中の項にすでに係数がついていることもあります。
項は \(3x\) と \(4\) の2つ。外の \(2\) を両方にかけます。
- \(2 \times 3x = 6x\) … 数どうしをかけます。 \(2\) と係数の \(3\) をかけて \(6\)、それに \(x\) がつきます。
- \(2 \times 4 = 8\)
したがって、
\(2(3x + 4) = 6x + 8\)
\(2 \times 3x\) を \(5x\) とするのは、かけ算を足し算にしてしまった形です。かけるのであって、足すのではありません。
\(x = 2\) を入れます。かっこの中は \(3 \times 2 + 4 = 10\) です。
左辺 = 2 × (3 × 2 + 4) = 2 × 10 = 20
右辺 = 6 × 2 + 8 = 12 + 8 = 20
左辺 = 右辺 なので成り立つ
かっこを外す手順
手順としてまとめます。
- かっこの中の項を数える。 符号は項につけたまま数える。
- 外の数から、それぞれの項へ矢印を書く。 本数が項の数と同じか確かめる。
- 矢印にそって、かけ算を1つずつ実行する。 符号もいっしょにかける。
\(5(x - 1)\) でやってみます。項は \(x\) と \(-1\) の2つ。矢印は2本。\(5 \times x = 5x\)、\(5 \times (-1) = -5\)。よって \(5(x - 1) = 5x - 5\) です。
今日の問い
かっこは「中を先に計算する」合図でした。ところが \(3(x + 2)\) のかっこの中は \(x\) が分からないので先に計算できません。それなのに、どうしてかっこを外してよいのでしょうか。
答えは長方形の図の中にあります。あの長方形は、先に足してからかけても、先にかけてから足しても、面積は同じでした。
つまり分配法則は、「先に計算できないなら、順番を入れかえてよい」という許可証です。かっこの規則を破っているのではなく、破っても結果が変わらないことを面積で確かめたのです。
かっこの中が \(4 + 2\) のように計算できるときは、先に \(6\) にすればよく、分配法則の出番はありません。分配法則が役に立つのは、かっこの中に文字があって先に計算できないときです。
よくある間違い
まちがい1:外の数を、最初の項にしかかけていない
✗ 2(x + 7) = 2x + 7
\(2\) を \(x\) にはかけたのに、\(7\) にはかけ忘れています。項は2つなので矢印は2本必要ですが、1本しか書けていません。
○ 2(x + 7) = 2x + 14
\(x = 3\) を入れます。
左辺 = 2 × (3 + 7) = 2 × 10 = 20
誤答の右辺 = 2 × 3 + 7 = 6 + 7 = 13
左辺 と 右辺 がちがうので この変形はまちがい
正しい式なら \(2 \times 3 + 14 = 20\) で一致します。
まちがい2:うしろの項にかけ忘れる(引き算のとき)
✗ 8(x − 1) = 8x − 1
これもかけ忘れです。引き算のときは \(-1\) を見落としやすくなります。\(8 \times (-1) = -8\) なので、\(-1\) ではなく \(-8\) です。
○ 8(x − 1) = 8x − 8
\(x = 3\) を入れます。
左辺 = 8 × (3 − 1) = 8 × 2 = 16
誤答の右辺 = 8 × 3 − 1 = 24 − 1 = 23
左辺 と 右辺 がちがうので この変形はまちがい
まちがい3:かけたときに符号が変わってしまう
✗ 6(x − 5) = 6x + 30
\(6 \times 5 = 30\) までは合っていますが、符号を落として \(+30\) にしています。かっこの中の項は \(-5\) なので、\(6 \times (-5) = -30\) です。
○ 6(x − 5) = 6x − 30
\(x = 7\) を入れます。
左辺 = 6 × (7 − 5) = 6 × 2 = 12
誤答の右辺 = 6 × 7 + 30 = 42 + 30 = 72
左辺 と 右辺 がちがうので この変形はまちがい
符号は項の一部です。 かけるときは符号ごとかける、と覚えます。
まちがい4:係数どうしを、かけずに足してしまう
✗ 2(3x + 4) = 5x + 8
\(2\) と \(3\) を足して \(5\) にしています。分配法則は「かける」規則で、\(2 \times 3x = 6x\) です。
○ 2(3x + 4) = 6x + 8
\(x = 1\) を入れます。
左辺 = 2 × (3 × 1 + 4) = 2 × 7 = 14
誤答の右辺 = 5 × 1 + 8 = 5 + 8 = 13
左辺 と 右辺 がちがうので この変形はまちがい
自分で確かめよう
紙に書いてから、答えを開いてください。かっこを外す問題では、矢印を書いてから計算すること。
次の式のかっこを外しなさい。
- (1) \(6(x + 3)\)
- (2) \(7(x - 2)\)
- (3) \(3(4x - 5)\)
- (4) \(8(2x + 1)\)
- (5) \(2(5x - 6)\)
分配法則を、\(a\)、\(b\)、\(c\) を使った式で書き、その意味を言葉でも説明しなさい。
下の長方形について、次の(1)〜(3)に答えなさい。
- (1) 長方形全体の面積を、かっこを使った式で表しなさい。
- (2) 左右2つの区画の面積をそれぞれ式で表し、その和を書きなさい。
- (3) (1)と(2)から分かることを、等号を使った1つの式で書きなさい。
- 次の変形はまちがっています。どこがまちがっているかを説明して正しく直し、\(x = 5\) を代入して値が合わないことを確かめなさい。
✗ 9(x + 2) = 9x + 2
\(x = 6\) のとき、\(5(x + 4)\) と \(5x + 20\) の値をそれぞれ計算し、等しくなることを確かめなさい。
\(4(2x - 3)\) を長方形の面積の図で説明しようとすると、うまくいかない部分があります。それはどこですか。また、そのときはどう考えますか。
答えと考え方
1. どれも項は2つなので、矢印は2本です。符号は項につけたままかけます。
(1) 項は \(x\) と \(3\)。\(6 \times x = 6x\)、\(6 \times 3 = 18\)。
\(6(x + 3) = 6x + 18\)
左辺 = 6 × (2 + 3) = 6 × 5 = 30
右辺 = 6 × 2 + 18 = 12 + 18 = 30
左辺 = 右辺 なので成り立つ
(2) 項は \(x\) と \(-2\)。\(7 \times x = 7x\)、\(7 \times (-2) = -14\)。
\(7(x - 2) = 7x - 14\)
左辺 = 7 × (3 − 2) = 7 × 1 = 7
右辺 = 7 × 3 − 14 = 21 − 14 = 7
左辺 = 右辺 なので成り立つ
(3) 項は \(4x\) と \(-5\)。\(3 \times 4x = 12x\)、\(3 \times (-5) = -15\)。
\(3(4x - 5) = 12x - 15\)
左辺 = 3 × (4 × 2 − 5) = 3 × 3 = 9
右辺 = 12 × 2 − 15 = 24 − 15 = 9
左辺 = 右辺 なので成り立つ
(4) 項は \(2x\) と \(1\)。\(8 \times 2x = 16x\)、\(8 \times 1 = 8\)。
\(8(2x + 1) = 16x + 8\)
左辺 = 8 × (2 × 1 + 1) = 8 × 3 = 24
右辺 = 16 × 1 + 8 = 16 + 8 = 24
左辺 = 右辺 なので成り立つ
(5) 項は \(5x\) と \(-6\)。\(2 \times 5x = 10x\)、\(2 \times (-6) = -12\)。
\(2(5x - 6) = 10x - 12\)
左辺 = 2 × (5 × 3 − 6) = 2 × 9 = 18
右辺 = 10 × 3 − 12 = 30 − 12 = 18
左辺 = 右辺 なので成り立つ
2.
\(a(b + c) = ab + ac\)
言葉でいえば「かっこの外の数を、かっこの中のすべての項にかける」ということです。\(a\) は \(b\) にも \(c\) にもかかり、一方だけにかけるのではありません。長方形でいえば \(a\) がたての長さ、\(b\) と \(c\) がよこを分けた2つの長さで、\(ab\) と \(ac\) の和が全体の面積です。
3.
(1) たて5、よこ \(x + 3\) なので、面積は \(5(x + 3)\) です。
(2) 左の区画はたて5、よこ \(x\) で面積は \(5x\)。右の区画はたて5、よこ3で面積は \(5 \times 3 = 15\)。和は \(5x + 15\) です。
(3) (1)と(2)は同じ長方形の面積を2通りに表したものなので、等しくなります。
\(5(x + 3) = 5x + 15\)
左辺 = 5 × (4 + 3) = 5 × 7 = 35
右辺 = 5 × 4 + 15 = 20 + 15 = 35
左辺 = 右辺 なので成り立つ
4. かっこの中の \(2\) に、外の \(9\) をかけ忘れています。
かっこの中の項は \(x\) と \(2\) の2つなので矢印は2本必要ですが、この変形では \(x\) にしかかけていません。図でいえば右の区画(面積18)を数え忘れた形です。
✗ 9(x + 2) = 9x + 2
○ 9(x + 2) = 9x + 18
\(x = 5\) を代入します。
左辺 = 9 × (5 + 2) = 9 × 7 = 63
誤答の右辺 = 9 × 5 + 2 = 45 + 2 = 47
左辺 と 右辺 がちがうので この変形はまちがい
正しい式で計算すると、次のように一致します。
左辺 = 9 × (5 + 2) = 9 × 7 = 63
右辺 = 9 × 5 + 18 = 45 + 18 = 63
左辺 = 右辺 なので成り立つ
5. \(x = 6\) を、それぞれの式に代入します。
5(x + 4) = 5 × (6 + 4) = 5 × 10 = 50
5x + 20 = 5 × 6 + 20 = 30 + 20 = 50
2つの値は等しい
かっこの中を先に計算してから5倍しても、先にかけ算をしてから足しても、答えは同じです。これが分配法則の言っていることです。
6. うまく説明できないのは、よこの長さが \(-3\) になってしまうところです。
\(4(2x - 3)\) を長方形と見ると、よこの長さの一部が \(-3\) になります。長さに負の数はないので、図が描けません。
このときは図ではなく項として見ます。\(2x - 3\) の項は \(2x\) と \(-3\) の2つ。符号は項に含まれるので \(-3\) をひとかたまりとして扱い、外の \(4\) を両方にかけます。
- \(4 \times 2x = 8x\)
- \(4 \times (-3) = -12\)
\(4(2x - 3) = 8x - 12\)
左辺 = 4 × (2 × 4 − 3) = 4 × 5 = 20
右辺 = 8 × 4 − 12 = 32 − 12 = 20
左辺 = 右辺 なので成り立つ
面積の図は、分配法則がなぜ成り立つのかを納得するための入口です。引き算が入ったら、項として数えるやり方に切りかえます。
次のレッスンへ
分配法則という道具ができました。次はこれを実際の式で使います。かっこを外したあと、同類項をまとめて式を整理するところまでを、ひと続きの流れとして練習しましょう。
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