抽象的な表現とは:具体と抽象を往復する
このレッスンの役割
前のレッスンで、抽象の四種と役割を知りました。ここでは、本文の抽象的な表現を起点に「これはどういうことか」を具体で確かめる手順を一つに決めます。設問「──線部とはどういうことか」「本文の具体例をふまえて説明せよ」は、この手順で解けます。
今回の中心技能は、「抽象の種類を決める → 本文の具体例を探す → なければ自分で具体を置く → 具体が抽象の意味を正しく表すか確かめる」の四段階を一行ずつ書けることです。目安時間は9分です。
今日の問い
便利さは、人から何かを奪う。望遠鏡に頼れば肉眼で星を探さなくなり、自動車に頼れば歩かなくなる。
「便利さは人から何かを奪う」を起点に下ります。種類:性質・傾向。本文の具体:望遠鏡と肉眼、自動車と歩行。確かめ:「便利さ」=望遠鏡・自動車、「奪う何か」=星を探す力・歩く力 → 対応。意味は「道具に頼ると、元の能力を使わなくなる」。
手順を一行ずつ
| 段階 | すること | 今日の問いの場合 |
|---|---|---|
| 1 | 抽象の種類を決める | 性質・傾向 |
| 2 | 本文の具体例を探す | 望遠鏡、自動車 |
| 3 | なければ自分で具体を置く | (不要) |
| 4 | 具体が抽象の意味を正しく表すか確かめる | 便利さ=道具、奪う=能力を使わなくなる ○ |
段階2:具体例の探し方
| 位置 | 合図 |
|---|---|
| 抽象の直後 | たとえば、実際に、具体的には |
| 抽象の直前 | 「このように」の前の文 |
| 別の段落 | 「先に挙げた〜」 |
| 対比の形 | 「一方」の前後(反対側の例も) |
段階3:本文に具体がないとき
| 抽象 | 自分で置く具体 |
|---|---|
| 現代社会は情報過多だ | 通学中にスマートフォンの通知が十件以上届く |
| 選択疲れ | 動画を選ぶのに三十分かかり、結局見ずに寝る |
| 人は名前を呼ばれると実感する | 転校初日に先生が名前を覚えていてくれた |
自分で置く具体は、「抽象の要素を全部含む」ものにします。「情報過多」なら「情報」と「多すぎる」の両方。
段階4:対応の確かめ
| 確かめ | 問い |
|---|---|
| 要素の対応 | 抽象の各語に、具体の要素が対応するか |
| 範囲 | 具体は抽象の一例であって、抽象より広くないか |
| 反例でないか | 具体が抽象を否定していないか |
例題:四種それぞれで下りる
| 抽象 | 種類 | 下りた具体 |
|---|---|---|
| 便利さは人から何かを奪う | 性質・傾向 | 自動車に頼れば歩かなくなる |
| 能力の外注 | 概念 | 計算機に任せて暗算をしなくなる |
| 読書は大切だ | 判断・評価 | (判断なので具体は「大切だと言える場面」)読書で語彙が増え、作文で使える言葉が増えた |
| 道具は能力を広げる | 一般化 | 望遠鏡は目の届く範囲を広げた |
判断・評価(大切だ)は、「大切だと言える理由の具体」を置きます。
記述への応用
「──線部とはどういうことか」は、段階2・4の対応を使って、抽象を「要素ごとに具体で言い換える」形で書きます。
| 抽象 | 言い換え |
|---|---|
| 便利さは人から何かを奪う | 道具に頼ることで、本来自分でできていたことをしなくなり、その能力が衰えるということ。 |
「〜ということ。」で結びます。
よくある間違い
段階2で、抽象の前にある別の抽象を具体と取る
「このように」の前にあるのが具体です。抽象の前の文が抽象のこともあります。
段階3で、抽象の一部しか含まない具体を置く
「情報過多」に「スマートフォンを使う」だけでは、「多すぎる」が抜けています。
段階4で、具体を「抽象そのもの」だと思う
具体は一例です。「便利さ=自動車」ではなく、自動車は便利さの一例。
自分で確かめよう
確認1:「現代社会は情報過多だ」の本文に具体がないとき、どう下りますか
抽象の要素(情報・多すぎる)を含む具体を自分で置く(通知が十件以上届く など)。
確認2:「便利さは人から何かを奪う」の言い換え(〜ということ)
道具に頼ることで本来自分でできたことをしなくなり、その能力が衰えるということ。
確認3:判断・評価(大切だ)を具体化するとき、置くもの
大切だと言える理由の具体(語彙が増えて作文で使えた など)。
まとめと次の一歩
手順は、種類を決める、本文の具体を探す、なければ自分で置く、対応を確かめる、の四段階です。「どういうことか」は、要素ごとに具体で言い換えて「〜ということ」で結びます。
次のレッスンでは、抽象的な表現が主張を支えきれない「ずれ」を、抽象の種類ごとに見つけて直します。
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