相手・場面・目的を考えよう:動作主と向きで選ぶ
このレッスンの役割
前のレッスンで、四つの問いと三つの働きを知りました。ここでは、一つの動作について「誰がするか」「誰に向かうか」「誰が聞いているか」を確かめ、尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれを使うかを決める手順を一つに決めます。この手順は、コースの全セクションで使います。
今回の中心技能は、「動作主を決める → 動作の向かう相手を決める → 聞き手を決める → 記号を当てて形を選ぶ」の四段階を一行ずつ書けることです。目安時間は9分です。
今日の問い
(生徒が先生に)先生が書いた手紙を、私が校長先生に渡します。
二つの動作があります。「書いた」の動作主は先生(相手側)なので尊敬語で「お書きになった」。「渡す」の動作主は私(自分側)で、向かう相手は校長先生なので謙譲語で「お渡しします」。聞き手は先生なので全体に丁寧語。「先生がお書きになった手紙を、私が校長先生にお渡しします」。
手順を一行ずつ
| 段階 | すること | 「渡す」の場合 |
|---|---|---|
| 1 | 動作主を決める | 私(自分側) |
| 2 | 動作の向かう相手を決める | 校長先生(目上) |
| 3 | 聞き手を決める | 先生(目上) |
| 4 | 記号を当てて形を選ぶ | 自分↓(謙譲)+聞き手→丁寧 → お渡しします |
段階4:記号から形へ
| 動作主 | 向かう相手 | 記号 | 使う敬語 |
|---|---|---|---|
| 相手側(目上) | 誰でも | 相手↑ | 尊敬語 |
| 自分側 | 目上 | 自分↓ | 謙譲語 |
| 自分側 | 目上ではない/相手なし | (なし) | 丁寧語のみ |
| 誰でも | 誰でも | 聞き手→丁寧 | 丁寧語(です・ます)を重ねる |
謙譲語は「向かう相手」が目上のときに使います。「私が歩きます」のように相手のない動作は、謙譲語にできません(丁寧語だけ)。
段階1:動作主の見つけ方
| 手掛かり | 例 |
|---|---|
| 「〜が」「〜は」 | 先生が書いた → 先生 |
| 主語の省略 | (私が)渡します → 文脈で補う |
| 「〜に」は動作主ではない | 校長先生に渡す → 動作主は私 |
「〜に」の人を動作主と取り違えると、尊敬語と謙譲語が逆になります。
例題:三つの動作
(生徒が面接官に)母が私に、先生の本を読むように言いました。
| 動作 | 動作主 | 向かう相手 | 記号 | 形 |
|---|---|---|---|---|
| 言う | 母(自分側) | 私(自分側) | なし | 言いました |
| 読む | 私(自分側) | 本(先生の物) | 自分↓ | 拝読する/読ませていただく |
| (先生の)本 | 先生の物 | ― | 相手↑ | 先生のご本 |
「母」は聞き手(面接官)から見て自分側なので、高めません(「申しました」も可)。
聞き手が変わると形も変わる
| 聞き手 | 「先生が来る」 |
|---|---|
| 友人 | 先生が来るよ |
| 先生本人 | 先生がいらっしゃいますか |
| 面接官 | 先生がいらっしゃいました |
動作主(先生)は同じでも、聞き手が友人なら尊敬語は使わなくても自然です。段階3を省くと、場面に合わない敬語になります。
よくある間違い
「〜に」の人を動作主にする
「校長先生に渡す」の動作主は私。向かう相手が校長先生。向きを取り違えない。
相手のない動作に謙譲語を使う
「私が走らせていただきます」は、走る動作が誰にも向かわないので不自然。「走ります」。
聞き手を考えずに敬語を足す
友人との会話で「先生がいらっしゃった」は不自然ではありませんが、「母がおっしゃった」は聞き手が誰でも誤りです(自分側を高めている)。
自分で確かめよう
確認1:「先生が私に本を貸す」を四段階で(聞き手は先生)
動作主:先生 → 向かう相手:私 → 聞き手:先生 → 相手↑ → 先生が私に本を貸してくださる。
確認2:謙譲語を使う条件
動作主が自分側で、動作の向かう相手が目上のとき。
確認3:「〜に」の人は動作主ですか
動作主ではない(動作の向かう相手)。
まとめと次の一歩
手順は、動作主、向かう相手、聞き手を決めてから、記号(相手↑・自分↓・聞き手→丁寧)を当てて形を選ぶ、の四段階です。「〜に」は動作主ではなく、相手のない動作に謙譲語は使いません。
次のレッスンでは、この手順で見抜ける不自然な言葉遣いを四つの型に分け、直せるようにします。
クイズと理解チェックは、アプリで挑戦できます。